2006-10-01から1ヶ月間の記事一覧

「哀しい私の子供達が囁く。何故、何故と。 人は私を見上げて泣き叫ぶ。何故、何故と。 私はただ全てを照らす。 理由を創ることなどなく、ただ光を湛える。 私はただ其処にあるだけの鏡。 願わくば、私の光がそれぞれにとっての祝福でありますように……」

恋人たち

「この温もりを何よりも求めた。 手を取って歩く、其の先が奈落だったとしても。 貴方に裂かれるということは、最期まで貴方に触れてもらえるということなのだから。」

異国から来た者

「生きることは滅ぼすこと。 愛することは生きること。 食べることは生きること。 死することは罪。墓の横に曼珠沙華が咲いている。」

彼女が見ている空

「人は私を見上げて希望を語る。 私自身の望みはただ地に落ちて逝くだけ。 此れより上が無いということと、底辺に在るということはいったいどれほど違う?」

窓から外を眺める少女

「私は信じます。 きっと明けない夜はなく、止まない雨もないということを。 私が今滅んだとしてもきっと明日は来るということを。 私は最期まで私の希望を捨てない。」

斧を振り上げる老人

「壊すことと創ることは等しいと信じていた。 破壊に飽いた今も、私は鑿を振るうことをやめない。 きっと生活とは矛盾するということだ。」

絵を眺める男

「生とは死に向かうことだとするならば、 美しい生の形とは美しい死の形なのではないだろうか。 それでも美を永遠のものと評する矛盾には目をつぶったとしても。」

「何かから逃れる為に人は集う。 何かから遠ざかる為に人は集う。 集うことが最も惨いことと知っている筈なのに。」

病人を看取る女

「病から逃れることを人は望む。 死の腕から少しでも遠ざかることを人は望む。 それを叶えたいと祈っていても、それが叶わないことは誰よりも解っている。 ―――愚かとはいったいどのような状況なのでしょうか?」

竪琴を弾く男

「あらゆる言葉に勝る旋律があると私は信じている。 文字が此処に留まっている間、私の唄は宙に解けていく。 最も残酷な者でも、空間から逃れることは出来ない。」

一輪の花

「ただ生きているだけで私はこんなにも美しい。」

少女の姿をした俯くもの

「魚が地を這うことが出来ないように、 犬が空を飛べないように、 私もこのようにしか存在出来なかった。 どんな温もりも何時か消えるという事実が私を縛るのだから。」

何かを記す女

「知りたいと思った。 伝えたいと思った。 この声が私の存在する証だと思った。 たとえ私が滅んだとしても。」

見守られる墓

「怨嗟も、感謝も、届くことはない。 此処を分かつのは秩序という名の神でしかない。」

墓の前に佇む男

「終わりの無い生は無い。 あらゆる美しいものも醜いものも、皆等しく土の中で腐っていく。 ……緩やかにしか無へと向かえない生命の何と悲しいことか。」

野を駆ける牧童

「世界とはなんて美しいのだろう! 生命が野に溢れている。 一歩踏み出すごとに風は渦巻き、遠くで家族の呼ぶ声がする。」

「何よりも清く在りたいと私は願った……灼かれることを贖罪と言うのならば。 そして私には何も要らなかった。」

鐘楼に立つ女

「ここに祈りの形をした嘆きが満ちている。 それでも、主は自らの命を絶つことを禁じた。 人は人の為にしか祈らない。私は私の為にしか祈らない。 主よ、哀れみたまえ。 貴方が創りたもうた命がここに祈ります。」

厨房に立つ青年

「生きるために食べる。 食べる。 食べることを愛する。 生きることを愛する。 鍋の中に、かつて生命だったものの残骸が漂う……私は生きることを愛する。」

其の時通り抜けた風

「何者にも縛られない在り方は、果たしてどれほど幸せか? 私は個ではなく、只の流れとしてのみ在るというのに。」

あらゆる山を越えてきた青年

「恐ろしいものは無かった。恐るべき者も。 我が屍は友の為の階段。 私はただ敗北のみを恐れた。 そして遂に私は敗北することなく、私の願いは成就した。」

何処からか来て舞う女

「百の言葉に勝る十の唄が在る。 私の指は只一つの音符、この腕は一節の旋律。 其れ故に知り得ること、其れ故に失くしたこと…… 蝶は舞ってもいないのに、舞うことを強いられる。」

古ぼけた本

「集積。知識の集積。誰かが語り得た知識の集積。 では、語るべき者がいない時、私は?」

本を抱く青年

「僕はただ知りたかった。 生き延びるために、出来れば幸せに生き延びるために。 本にはこう書いてあった。『語り得ぬことについては沈黙せねばならない』と。 僕は、何も語り得ない。」

「私は全てを抱く。 人を、風を、木々を、家を、畑を、血を、嘆きを。 ただ私は全てを抱くのみ。 そこから何も還すことは無く、 私が何かを語ったことは無かった。」